クリスは見かけによらぬもの

2015年になりました。
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。

今年は5リズムの先生としても、しっかりとクラスを増やして行きたいと思っています。

私は写真も文章も「人物スケッチ」が好きみたい。
人知れず、ずっと書き続けている「触れあうタマゴ」も、その一環。
動く瞑想5リズムを教えていても、人の内面に触れられるから好きみたい。

5リズムは「動く(踊る)瞑想」
パフォーマンスじゃない個人のインナーワークなので、年齢は関係ない。様々なレンジの年齢の人と5リズムを通して知り合えるチャンスがいっぱいある。

新年第一弾のブログは、5リズムのクラスで一緒になるクリスの事。

☆ ☆ ☆

2014年の大晦日の事である。

その日はクリスもやってきた。
クリスは70歳は軽く超えているであろう、おばあちゃん。

牛乳瓶ほどの老眼鏡をかけて背中を丸めながらヨボヨボとやってきて、スタジオのはじっこのいつも同じ場所に陣取る。

トレードマークの帽子をゆっくりはずすと、銀髪が彼女の年齢をさらにあげる。床に座り、膝をなでながらゆっくりとした所作でスパッツの上からレッグウォーマーをつけ、黒のレオタードに黒のスカートを巻く。

一言で言うと「老婆」なクリスが一旦、立ち上がってフロアに出ると、自由にくるくると回り、若い頃バレエでもしていたのかと思わせるほどの動きをする。
ジャズ系の音楽がかかると身体全体が喜んでいるかのように動く。

今日はクリスが私のレッグウォーマーを見て、話しかけて来た。
「なんて素敵なレッグウォーマー!私、縞が大好きなの。どこで買ったのかしら?」

私は、日本の100均、ダイソーだと言った。
クリスは、もし次ぎに行った時にあったら、買って来て、と私に言った。
そしてその流れで少し話をした。

いつもはあまり話さない。
というのも、私の英語は日本語ナマリがあって、特に年上の方達には聞き取りにくいので、何度も聞き返されて面倒くさいから。

だけど、今日はレッグウォーマーの事から話が続いた。

「この冬のLAは寒いでしょう?(実際東京より温度が下だった!)私のアパートね、実は故障でアパート全体のヒーターが壊れて、寒くてしょうがないのよ。しかもニューイヤーで修理が3日まで来ないって言うの。どうやって乗り切ろうかしらと思ってね、暖かそうなものを見ると、つい全てに反応してしまったのよ」

老婆が1人でアパートに寒い思いをしているというのは、なかなか痛い図だった。

私は、ホットカーペットっていう日本のスグレものを持ってるから、持って行ってあげると言ったら、彼女はカーペットのサイズを聞いて来た。二畳の普通のカーペットだからアメリカのアパートならなんなく入るサイズなはずと思いながら「これくらい」と手でサイズを示したが、クリスの返事は「ウチにはそのサイズは無理」

うーん、どんなアパートに住んでいるんだろう。。。
そういえば、他の友達は「クリスはお金がないはず」と言っていた。
私の中でのクリスは、踊りが好きでダンスのクラスだけを楽しみに余生を送っている可哀想な老婆、というイメージだった。

私は足下用の小さいバージョン(50x50センチ)のホットカーペットも持っているから夕方の買い物の後、クリスの所へそれを持って行ってあげると約束して電話番号を交換した。

夕方になって、住所をたどりながらクリスのアパートに着いた。

カーペットを渡した後、クリスは「ちょっと寄って行く?」と言った。

本当は大晦日で早く帰りたかったんだけど、2畳のカーペットが入らない家と、クリスの生活を見て見たい好奇心が勝ち、少しだけお邪魔する事にした。

「ウチは散らかってるの」
とクリスは言った。
「散らかってるのはまかせて。私も片付けが出来ないから」と中へ入った。




絶句。

本当に散らかっていた。
というか、その小さな部屋には足の踏み場がなかった。
壁に、床に、全てに物が詰まれていた。いったいどうやって生活するのだろう?引っ越し中の家でももっと通り道がある。とにかくモノであふれかえっていた。

断捨離の達人が見たら、家ごと捨てる。風水的に言ったら絶対絶命、もしくは風水を跳ね返すほどの勢い。
物置の中にテレビが光っていた、と言うほうが正しい。

その中にボルテックスのように独りがけのソファがあった。
ソファの上に置かれたいらないものを隠すようにクスっと笑いながら毛布を置き、そこを指差し、私に座るようにと言った。

ボルテックスの前には大きなボタンなどがいっぱい張られており、これは何に使うのかと聞くと、あまりに散らかっているのでその存在が確認出来ないほどのランプシェードを指差し「こういうのを作るの。私、アーティストなの、知らなかった?」

ランプシェードには数々の幾何学的な折り紙細工が吊られており、スピ系にありがちな、オリエンタルな折り紙好きと神聖幾何学ファンが交じったものか、と思いながら、「へえー、素敵ね!」と年寄りヤルじゃん的なテキトーを言った。

人の家へ行ったら、大概何かを褒めなくてはならないのがアメリカの常識。だけど、どう褒めたらいいかわからなかった。

クリスはニコニコしながら
「私のポートフォリオ見る?」
と、ゴミの山から大切そうに箱を出して来た。

そのポートフォリオは私のソレよりもホコリもかぶらず、大事に、「すぐ出陣」出来るように保管されていたのに驚いた。

「ずいぶんと古いものもあるんだけどね、1970年とか。ほぼハンドスケッチの手描きよ。だけど、それらをスキャンして3Dオブジェクトをのっけたり、Mayaでテクスチャーのっけたり、フォトショップで色を付けたりしてね、アレンジしなおして過去の作品が生き返ったのよ」

え。。。

ポートフォリオを開けて行くと、そこはファンタジーの宝庫で、彼女のスケッチは趣味の域などではなく、プロ以上にプロだった。

あなたは何者なのだ、と聞くとこう言った。

「私は昔、子供用のオモチャのイラストを描いてたの。ボーイフレンドはいたけど一度も結婚する事もなく、50年以上仕事をした後リタイアしたのよ。これらのポートフォリオはそんなイラストじゃなく、自分が本当に描きたいものを集めたものよ」

彼女のモチーフは躍動感あふれる「踊る人」のとてもダイナミックなスケッチが多かった。ものすごい数の動きの種類。踊っている人にしかわからないポーズ。ポーズにそれぞれ感情がある事を知った人にしか描けない絵。

そして何よりも、彼女は光を知っていた。
彼女の絵の中の「ライティング」は素晴らしく、私が写真をやっていて勉強して勉強して、それでもうまくいかなくて悩んでいるような事を知り尽くしたライトを当てられたモチーフが描かれていた。

「クリス、すごい。私は今猛烈に衝撃を受けてるわ。なんでこんなライティング知ってるの?これはヨガやダンスの時に筋肉を誇張させるための照明よ。こんなライティングでかかれた手描きの絵なんて見た事ない!」

というと老婆は笑いながらこう言った。
「私の頭の中には全部入ってるの。私の親は、両親とも写真家だったのよ」

それ以外のモチーフは、エッシャーのだまし絵のようなもの、そして神聖幾何学の平面ではなく立体的なものが多かった。

「これが6面体でしょ?これが8、12、20面体。(←この数字は私が覚えていないのでいい加減だ) これらが基本なの。この多面体をあわせて何百面体もの全ての立体が出来るのよ。すごいと思わない? 図形って科学でロマンだわ!」

そう言って、キラキラ楽しそうに上を見る。この時のクリスはいつもの彼女とは別人で、聡明な博士のような狂気を帯びた美しさが見えた。

なるほど納得。2畳のカーペットが入らないのは、この部屋自体が彼女の脳みそだから。所狭しと積み上げられたものは全て彼女に必要なモノなのだ。

「私はほとんどの時間、コンピュータの前にいるから、この小さな足下カーペットはとてもありがたいわ」

人は見かけによらぬもの。
見かけで判断しちゃソンをする。

彼女のアートを堪能した後、大晦日で準備もあるからもう帰ると告げると
「本当にいいの?お腹すいてない?一緒にマクドナルドでスナックでもどうかと思ったんだけど?」
と笑顔と落胆の交じった表情で言った。

なんだか、ちょっと切なかった。
大晦日にマクドナルドで、というあたりもキュンとするツボに入った。

いっぱいの才能のある人。
天才は隠れた所にいる、って誰かが言ったっけ。。。

その人たちが老いて行ったり、埋もれていったり。
だけど、ダンスして楽しんでたり。

人は成功した人しか見ていない。
だけど、成功する、しないは、その人のただの外世界に対するアプローチなだけで、生きて行くという意味ではたいした事ではないんじゃないかと、クリスを見ていてそう思った。

2015, 01/02 Happy New Year!

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