ミックの誕生日(1月5日)に。。。
夫、トムが
「今日はミックの誕生日だよね? 犬の散歩に行ったらね、変な事があったよ。ミックの事を考えてて、ミックかい?っていったら道行く車が「プー」とクラクションをならし、本当かい?ってもう一度頭の中で聞いたら全然知らない人が「イエーイ!」と言い、「これは何かのサインなのか?」ともう一度自分にといかけたら、目の前のヨソの犬が「ワン!」って鳴いたんだ。まるでミックの魂が、僕と遊んでるみたいだったよ。
ミックの魂は間違いなく、人を揺さぶっていたようだ。
今日はワシントン州のポイントロバートでも、彼は人の心をくすぐっていたらしい。
シエラからメッセージが入った。
「見て、ほら、メルティキッスよ」
***
ミックが自らの命を絶ったのは3年前の9月の終わりだった。
ベスからの悲痛な叫び声の電話でその知らせを聞いた。あのときの景色、音、家の床の色、階段に落ちていた犬の毛。
記憶とは、何故そういうクダラナイものを一緒に覚えているんだろう?
ミックはLAが嫌いだと言い、カナダとワシントン州の国境にある、ポイントロバートという街へ引っ越し、そこに三年住んだ。最初の頃は新しい場所の素晴らしさをたたえていたが、そのうち、何も無い田舎は憂鬱だと言った。またLAに戻りたいと言っていた。多分ミックが嫌だったのはその街、その街ではなく、自分を最後まで、ちゃんと愛せなかったのだろう。
寒い冬。
どこへもでかけられないホリデーシーズン。
ミックの誕生日は1月5日。
弟のような彼のために、様々な日本の品物、とりわけ彼の好きだったものを箱に詰めた。
クリスマスは淋しい季節だと言っていつも酔っぱらっていた。
そんな淋しいクリスマスから新年、そして彼の誕生日にかけて、彼はものすごく憂鬱になる。
そんな彼がうまく笑えるように、私は一つづつのラーメンを、キレイに包装した。バカバカしさは時に大切だ。
正月明けにはミックから電話が入り、全部開けてみた?と聞くと、
「まだ、もったいなくって全部あけてないんだ。ひとつ開ける毎にラーメンとか、わさびマヨとかが出てきて、本当はその度に笑いながら泣いてる。涙でなかなか全部開けられないよ。ありがとうマサヨ、、、」
お好み焼きの粉、お好み焼きソース、わさびのチューブ、わさびマヨネーズ、とんこつラーメン、ミルキー、ハローキティのキャンディ、ポッキー。
そして、彼がケラケラ笑った「冬季限定とろけるチョコレート、メルティッキス」
「メルティキッスってどういうネーミングなんだよ!君たち日本人ってほんっと可笑しいよな」と、大笑いした後、ひとつぶを口に放りこんだ後、「オーマイガーッ!」といって、目を閉じたまま無口になった。
ほんとだ、これは本当にメルティキッスだ!
それ以来、そのネーミングを笑わなくなった。
ミックが一番好きになった日本のお菓子。
***
ポイントロバートでのお葬式に参列したとき、私を見て驚いた顔をした一人の女性がいた。
彼女はそれまで彼氏にささえられながら、崩れるように泣いていた。が、私を見るなり、私を指差し近づいてきて、こう言った。
「うわぁ!!! メルティキッス!!」
「ミックがね、毎年お正月になると、大事そうにあなたから送られてきた箱をかかえて、私たちに見せて、そして、ひとつだけメルティキッスをくれるの。”いい?これは最高に美味しい魔法のチョコレートなんだ。みんな目を閉じて、これを味わって。噛んじゃダメだよ、口の中でとろけさすんだよ”って。私たちは皆で目を閉じて、このチョコレートを味わったのよ」
ミックがどういう表情でそう言ったか一センチ違わず解る私とトムは、お葬式の教会で、泣きながら大笑いをした。
***
フェイスブックで、シエラがメルティキッスの写真とともにメッセージをくれた。
「ねえ、メルティキッスの事覚えてる?。あなたが始めちゃったあの伝統行事、まだこのポイントロバートで続いてるわよ。私たちはあの後、ホリデーシーズンには、何が何でもメルティキッスを手に入れて、贈り合う習慣が出来ちゃったのよ。ああ、忘れられないわ、あの日々の事。。。」
「シエラ、知ってる?今日はミックの誕生日よ」
「ああ!だから!!なんだかミックがそこにいるみたいに、本当にありありと思い出したのよ」
Happy Birthday Mic.
あなたのことは忘れられない。
一緒に家族のように過ごした日々。
一緒に日本へも行ったね。
キラキラと瞬間瞬間を生きた、輝く人生だったね。
あなたと出逢えて嬉しかったよ。
また、いつか、どこかで。。。
ミックはまだ、そのへんで きっと笑っている。
「あはは、マサヨ。僕はここにいるよ」と。